■補聴の購入を失敗しないための予備知識
(元の《予備知識》のページに戻るには、もう一度上の[予備知識]のタグをクリックしてください)以前の私は、長く顧客として様々な購入体験をしたものでもあり、聴こえを取り戻そうとする方々の必死さが人事でなく理解できているつもりです。私も長い間、聴こえる補聴器に出会えず、何度も失敗を重ねた経験があります。
当時の私は、聴こえるようになるなら自分ができることは何でもしたいと必死でしたが、どうしたら良いか分かりませんでした。おそらく、多くの難聴の皆さんも同じことを感じておられると思います。現在の補聴器専門店としての経験を加えると、多少見える世界が変わり、広がります。そこで、補聴器購入に失敗しないために、知っておいて頂きたいことを幾つか紹介します。
このページが、少しでも役に立つことを心から願います。(前オーナー)
■【聴こえ】は“本人だけのもの”です
先ず始めに、何故いろいろな問題が補聴器購入で起きるのか、補聴器購入がどうして難しいのか、根本的なことを理解してください。
それは、個々人の聴こえは本人以外の他の人では分からないと言う事です。難聴の度合いが中等度くらいになると、単純に耳の感度が低下するだけでなく、聴こえる周波数によって感度も、感度の直線性も不揃いになり、ギクシャクしています。聴こえる周波数の幅も狭くなってきます。
このような障害で、例え同じ音を聞いていたとしても、その聞こえ方は各人千差万別で、その聴こえ方を他の方に伝えるのはとても難しいのです。
まず、よく、“聴こえ”を“見え”になぞらえて、聴こえ方と見え方とを同レベルの認識で説明しようとする場面に出会うことがあります。しかし、“聴こえ”と“見え”にはかなり異なる側面があります。様々な問題は、この違い、つまり、聴こえの把握の難しさが原因になっています。以下に、もう少し詳しく説明します。
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瞬時の一過性
耳も目も、共に、機能が低下すれば対象を把握し難くなります。対象とは“聴こえ”では音や音声で、“見え”では形や色などです。あるいは、もっと絞った表現をすれば、言葉であり、文字やイメージであると言えるかもしれません。これらの対象を把握するうえで、両者間に決定的な違いがあることにお気づきでしょうか。それは、対象の把握に関われる時間の違いです。“聴こえ”の対象は空気が振動する現象で拡散します。言い換えれば、位置的に留まることなく、球状に1秒間に340mのスピードで広がって行くので、音は≪瞬時に≫捉えて理解把握しなければなりません。その瞬間を逃せば対象は無くなります。更に、その対象は、時系列順に待ったなしに、次々に耳に入力してきます。
一方、“見え”での対象は物ですから、対象を継続的に捉えることが可能で、時間をかけて、目を凝らしたり近づいて見たり可能です。対象が変化する場合は変化全体を把握対象と捉えることもできるでしょう。言い換えれば“聴こえ”で把握しようとする対象は瞬時の一過性の現象で、“見え”で把握する対象の物のような継続性はないのです。共有性
更にもう一つ、大きな違いがあります。“見え”は、見え具合を絵に描いたり、写真を用いたりして自分以外の者に理解させ、ある程度正確に、具体的に共有することが可能です。
しかし、“聴こえ”は「言葉がはっきりしない」とか「音としては聴こえるけど何を言われたかは分からない」の様に漠然として、抽象的にしか状態を表現できす、他の方と共有が困難です。このことは、補聴器調整者とて例外でなく顧客の聴こえ方の理解をむずかしくしています。“聴こえ”と、“見え”は、耳と目という違いだけでなく、
両者間には、- 耳が把握する対象は瞬時の一過性
- 共有性・・他人が共有困難
このような決定的な違いがあることを知ってください。その結果、- 【聴こえ】は“本人だけのもの
このため、補聴器調整者といえども、補聴器を必要とする方の聴こえの明確な理解は易しくありません。更に、健常な聴こえを持つ者は難聴の聴こえ自体を体感することはできませんし、難聴者が用いる補聴器を通しての聴こえを経験することも困難です。
如何にして克服するかは容易ではないと思います。この克服には経験が必要で時間もかかるでしょう。補聴器の調整が難しい理由にもなっていると思います。
■補聴器購入の成功・失敗を分ける補聴器店選び
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聴こえに不安を感じ、補聴器が欲しくなった皆さんは補聴器の購入を考えることでしょう。ところで、普通、皆さんは、補聴器がかなり高価な買い物であるに関わらず、意外に、実は補聴器についての知識を持っていません。補聴器店についても同じでしょう。それは皆さんが補聴器店を信用してくださっているというなら大変ありがたいことですが…。
一方では、ご購入後に、不満を訴える方が少なくないのも、事実です。
補聴器ご購入についての相談で多いのが、「補聴器店選び」についてです。ご自分の体の一部になってもらう補聴器です。ご購入前に、少し詳しくなる努力をしてくださることを心から希望します。そうずれば、多くの皆さんは補聴器購入の失敗を防げます。
失敗を避けるための重要なポイントは次の二つです。- 補聴器に詳しい補聴器店を選びましょう
- 話をきちんと聞いてくれるお店で
・補聴器に詳しい補聴器店を選びましょう
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補聴器店が、己の取り扱っている補聴器に詳しいか否か、つまり扱っている補聴器の個々のモデルの特徴を把握しているか否かで、わかりやすく説明ができるか否かです。失敗した方々は、そう言われれて思い起こせば、おそらく思い当たることでしょう。私自身も一度ならず、経験があります。
補聴器の調整は職人的な仕事です。何故なら、前述のように、他人の聴こえは容易に理解できないためで、聴こえたい方の状況を把握することは容易ではありません。その伝授も簡単ではありません。調整者の姿勢、心構え、そして日々研鑽、そして経験・・そんな気がします。現在の日本には補聴器調整技術についての民間資格はありますが、国家試験・国家資格はありません。各メーカ毎・各シリーズ毎に極めて専門性が高い技術が組込まれ、大変早いスピードで進化して市場に投入される補聴器に対しては、補聴器に対しての理解・調整技能・技術は日々精進し続けなければなりませんし、この資格の取得が補聴器販売店開設の条件でもありません。したがって、言ってしまうと、医療機器販売の認可さえ取ってしまえば、誰でも補聴器を販売することが出来ます。その為、補聴器購入希望者には誤解とご不便を与えている可能性さえ感じます。調整の良否には、専門的な知識が拘り、その補聴器を操るためには己が扱う補聴器について精通しなければならないはずです。
補聴器に精通しているか否かを見抜く良い方法があります。その資格を持っているかどうかの他に、薦める補聴器について十分な分かり易い説明ができるか否かが頼りになる尺度と言えるはずです。現在、皆さんが購入される補聴器店の補聴器の殆どが、デジタル式のノンリニアタイプ補聴器です。デジタル式ノンリニア補聴器は主に、音量不足を補う増幅が目的ではなく、コトバの明瞭度の確保を目的に、扱う周波数帯域内の対周波数増幅処理を専用のプロセッサ、つまり補聴器内に組み込んだコンピュータで行います。周波数毎の増幅率だけでなく、各々の周波数における音圧も一様でなく大・中・小を個々に調節します。その処理と同時に結果を補い改善するための付加的な処理も様々に行っています。補聴器は、扱う周波数幅や、付加的処理の有る無し、種類、数によって価格が異なると言っても良いと思いますので、分かりやすく説明してもらう必要があります。
(価格で言えば、多くのメーカのマルチチャンネル式では先ず、チャンネル数でも価格が変わります)様々な付加機能による聴こえ方の良否によって価格が変わります。付加機能まで理解しないと補聴器の性能は十分に発揮されません。
補聴器店が、己の取り扱っている補聴器に詳しいか否か、つまり、扱っている補聴器の個々のモデルの特徴を把握しているか、それに精通しているか否かは当然ですが大変重要なポイントです。このために、補聴器調整者は電子技術や音響、通信・・等々ついても大凡の理解が必要だと思います。補聴器店の補聴器は主に劣化したコトバの明瞭度の改善を目的に、音域処理をデジタル技術で行います。その処理を、補い改善するための付加的処理も同時に行っています。すべてのデジタル処理はデータとしてパソコンなどに保存されるため再現性は高く、経年変化がなく、温度変化などにも強く非常に高精度に行うことができ、極めて多機能、高機能になっています。調整者がそれらを理解できているか否かは調整の可否そのものです。ご購入者はお求めになろうとする補聴器の特徴について分かりやすい説明がされているか否かで、その調整者の良否を知ることができるでしょう。分かり易い説明をしてもらうよう努力してください。分かり易く、良い説明は、あなたの理解度に応じた大変有効な知識が得られますので、進んで説明をしてもらうよう心がけましょう。
説明の分かり易さは、説明者の理解度そのもの、分かり易い説明ができない調整者は、その補聴器の機能を理解できていないかもしれません。
・話をきちんと聞いてくれるお店で
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上でも書きましたが、耳の聞こえ方を他の人に説明するのは非常に困難です。ですので、お客様の訴えは時には長い時間をかけて、真摯にお聞きする必要があります。店員と話しをしてみて、きちんと話を聞いてくれるか、それについて適切なアドバイスをしてくれるかと言うのもお店判断の重要な要素です。
昨今、多様な販売者が補聴器を扱い始めています。しかし、補聴器を正しく希望される方にお渡しするのはそれほど易しい仕事ではありません。 上記の事を良くお読み頂き、良い聴こえを手に入れられるよう心から希望します。